難病と共に豊かに働くことができる社会の実現を。ヤンセンファーマ株式会社 米山 祐子

3人に1人が何らかの病を持っていると言われる現代。


その中には、一生付き合っていかなくてはいけない病も存在します。

安倍前首相が罹患していることでも話題となった「潰瘍性大腸炎」もその一つ。

この病気は、「クローン病」と合わせて「IBD(炎症性腸疾患、Iinflammatory Bowel Disease の略)」と呼ばれています。国の難病にも指定されており、 罹患すると一生付き合っていかなくてはいけない病気です。患者は腹痛に悩まされ、一日に十数回もトイレに行かなくてはいけないほど下痢や便秘を繰り返し、下血なども起こります。そうなると当然ですが、学校生活や社会人生活にも支障が起こります。


その中で「この状況をなんとかできないだろうか」と立ち上がったのが、ヤンセンファーマ株式会社の「IBD とはたらくプロジェクト」です。


病気があったとしても、自分らしく働いていけるように「ワークシックバランス」という考えを提唱し、IBDの啓発や改善に努めています。


今回はヤンセンファーマ株式会社コミュニケーション&パブリック アフェアーズ部の米山さんにその取り組みや企業としての考え方について、詳しくお話を伺いました。


はじめに、ヤンセンファーマはどのような企業ですか。


世界最大級のトータルヘルスケアカンパニーであるジョンソン・エンド・ジョンソングループの医薬品部門を担っています。


今回の「IBD とはたらくプロジェクト」ですが、どのようなことがきっかけで生まれたのでしょうか?


2020年開催の参加型イベント 「ワークシックバランスひろば」にて


まず、我々の母体であるジョンソン・エンド・ジョンソンには「Our Credo(我が信条)」というコア・バリューがあり、その中で「顧客や患者さんへの責任」というものが謳われているんです。


そこを受け、ヤンセンでも、患者さんの病を癒すということを突き詰めて考えた時に、患者さんが過ごしやすい環境を 整え、患者さんに寄り添ってより充実した生活を送ってもらうために、医薬品の提供だけでは解決できない課題に向き

合う「Beyond Medicine(ビヨンド・メディスン(医薬品を超えて)」という姿勢を大切にしています。その活動の ひとつとして、「IBD とはたらくプロジェクト」を実施しています。

活動を始めた具体的なきっかけとしては、IBD の患者会の方々との交流があります。 その患者会の方々と交流を重ねているのですが、患者さんたちにどういう困り事があるのですかと伺った際、IBDの患者というのは実は、働くことに悩みがあるということを伺いました。


ではこの問題を、どうにか解決ができないか?と 考えた時、このプロジェクト案が生まれました。 そのきっかけをもとに、難病の就労移行支援を行なっている株式会社ゼネラルパートナーズさんと、患者会のIBDネットワークのみなさまのサポートを得て、この「IBD とはたらくプロジェクト」が 2019年に立ち上がりました。


その「IBD」ですが、どのような病であるか、教えてください。

IBD は「炎症性腸疾患」のことで、主に「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」という病気が含まれます。


この病気は、免疫の異常によって腸を中心とする消化管の粘膜に炎症が起こってしまう慢性の病気であり国の指定難病を受けている疾患です。


未だに根治療法はなく、発症すると一生付き合っていくことが必要となる病気です。

症状は、落ち着いている「寛解期」という時期と、悪化してしまう「再燃期」という時期があり、それを繰り返します。 人数は、世界規模で増加傾向にあり、日本では29万人の患者さんがいらっしゃいます。内訳として、潰瘍性大腸炎は約22万人、クローン病は約7万人です。

難病と聞くと、若い人は「がん」などをイメージするかと思いますが、IBD は実は、若年層の発症が多いんです。 男性では 20〜24 歳、女性では 25〜29 歳で発症されるケースが最も多いとされています。 まさに、IKIRUプロジェクトの皆さんにとても近い年齢です。

IBD の患者さんは、病気が原因で、下痢や下血、腹痛に悩まされ、トイレに行く回数がとても多くなってしまう方がいらっしゃいます。そのため、業務に集中することができず、休職、離職しなくてはいけなくなるケースがとても多くな っています。周りに相談すればいいのではという声もあるかもしれませんが、腸に関する疾患ということもあってデリケートなこともあり、周りに言えないという課題も存在しているんです。 だからこそ、まずはこういったプロジェクトを通して周りに知っていただくことがとても重要になっていくと感じています。



活動についてより詳しくお話しをきかせてください。

2021年5月開催の「 IBD とはたらくプロジェクト」ライブセッションの様子



まず、活動のビジョンとして「IBD を抱えながらも、働くということをもっと当たり前のことにする」ということを掲げ、患者さんへのサポートと、働きやすい就労環境を作るという両方の観点から実施しています。

IBDは難病であり、一生付き合わなければいけない存在です。

その中でも、20 代から罹患となった場合には、ほとんどの人生を病気と共に暮らしていくわけで、治療しながら就活をしたり、仕事を続けていかなくてはいけません。


そして、働き方というのもさまざまです。

患者さんによっては、ばりばり働きたいという方もいれば、仕事と生活のバ ランスをとりたいという方もいらっしゃいます。だからこそこのプロジェクトでは「自分らしく」ということを重要視しています。生活にあった働き方ができるようになるといいなと考えて実施しています。


ただし、それらは難しい点も存在しています。

だからこそ、もっと広く考えてほしいな、という思いがあり、去年からは新しいコンセプトをつくりました。 それが「ワークシックバランス」というコンセプトです。これは、病気を抱えていても、自分らしい働き方を選択でき ることを目指す考え方です。このコンセプトとともに、IBDをはじめさまざまな病を持った方々が、もっと自分らしく働ける環境を作る、という環境づくりにも力を入れています。


今年はこの考え方に賛同してくださった方々ともに「チームワークシックバランス」というものも生まれ、ジャーナリ ストの方や実際に病と闘っているタレントの方などと、オンラインイベントなどを通じて、コンセプトの普及に努めています。


その他、患者さんのサポートとして、働くことについて話し合いやすくなるようなツールを用意していたりもしています。 患者さんが頑張るだけでは限界があるので、そこをサポートしていけるようにしています。



このプロジェクトを行う上で、何か生じた問題や大変だったことはありますか?

ひっぱると可愛らしいイラストと共に IBDの説明が出てくるトイレットフリーペーパーを興味津々に見つめる子どもたち



やはり「理解していただく」ということですね。


今回最初に取り組んだのが、患者さんと会社側のコミュニケーションを円滑にするツール開発であったり、企業向けの人事セミナーでした。

でも、その中でやはり「世の中ごとになっていないな」ということに気づきました。

話をするけれど、理解するというところまで至っていない現実があったんです。それもあって、みなさんが考えるきっかけが作れたらいいなと思い「ワークシックバランス」というコンセプトを打ち出し、そこから活動の幅が広がったり、別のアプローチ方法を考えてみるようになりました。


実際にこのプロジェクトを知った方や当事者からの反応はいかがでしょうか。


先述したように配信等も実施しておりますので、主に SNS での反応をいただきました。

「仕事と病気のバランスは大事だと痛感します」「困ったら産業医を頼ってほしい」ということや、「ダイバーシティ ーインクルージョンでもっと注目されるべきであると思います」といった現代社会のあり方と共にいただいたコメント、他にも「なんらかの病気と向き合っている人が目の前にいるかもしれない想像力を身けたい」というコメントもいただきました。


活動としては徐々に広まっていっている感じでしょうか。

向かって左から お笑い芸人のお侍ちゃん氏、北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター副センター⻑の 小林拓氏、慶應義塾大学大学院教授の岸博幸氏、落語家の林家彦いち氏


そうなんです。チームワークシックバランスのみなさんをはじめ、いろんな方々の力を借りながら、運営できています。

いろんな方々に参加いただくことでいろんな視点が加わりますので、その先に、本当に患者さんにとって働きやすい環境というものが整っていくと思います。


患者さん本人は、外から見ても分からない、健常者と変わらないような印象です。

ですが、実はとても困っていること や自分の病気があるからこそ、悩みが生まれていきます。


一例としては、患者さんが活動期のときにお腹が痛くなって、一日10数回トイレに行くそうなんですね。⻑い間トイレにいたので、他の方に聞いたら「スマホをいじっているかと思った。仕事をサボっているかと思った」というように誤解されてしまうこともあるそうです。周りの方にも言いたいけれど、言えない。


不安なことを相手に伝えることって難しいですよね。だからこそ、理解してくれる人が増え、サポートいただく方々の数も増え、周りの方とコミュニケ ーションしやすい環境に近づけていければと思っています。



今後はどのようなことが必要になってくると思いますか?


一人ひとりが、「想像力」を持って周りを見てみるといいのではないかと思っています。


これは、チームワークシックバランスの方のコメントです。もしかしたら自分がいる環境にも、目に見えない何かしらの悩み事であったり、病気であったりとか、あるかもしれないですよね。


そんな視点を持って周りを見てみたら、理解が進むのではないか?という話をしてくださったんです。私も本当にそう思いました。

たとえば LGBTQも今、少しずつ理解されるようになってきています。


以前はカミングアウトするのもされるのも難しい世の中だったと思います。それがまわりの理解が進んだことによって、昔に比べても受容度も高くなっているように思いますし、徐々に話しやすくなったのかなと思います。


こういった変化が、ワークシックバランスにつながってくるのではないかと感じます。

少し想像力を働かせて世の中を見れるようになってくると、こういう方もいるんだ、ではこういう風に接してみようかな、というように変化が生まれていくと思います。



このプロジェクトもそうですが、企業として今後のビジョンがあれば教えていただけますか。


これまでお話させていただいた通り、周囲の方の理解であったり、適切なサポートがあれば病を持った方でも、もっともっと社会で活躍できると信じています。

ですので、IBD とはたらくプロジェクトをはじめとして、ヤンセンでは常に 患者さんに寄り添って、1 人でも多くの方の健康に貢献していきたいと思っています。

今回は「Beyond Medicine」を紹介させていただきました。この疾患啓発活動の大きな傘の下に、IBD とはたらくプロジェクトがありますが、統合失調症や、肺高血圧症、乾癬など、他の疾患でも同様に様々な疾患啓発活動を実施しています。これらの活動を通して患者さんが生活しやすい環境を作ることを実施しています。


最後に、新しいことにチャレンジしたい若者に向けて、メッセージをお願いします。


新しい未来は、いろんな視点をもったみなさんと一緒に作っていくものであると思います。このプロジェクトもそうですがみなさんの力が必要です。ぜひいいアイデアがあれば、お寄せいただければと思います。


【スピーカープロフィール】

米山祐子

ヤンセンファーマ株式会社コミュニケーション&パブリックアフェアーズ部

米国州立ユタ大学を卒業後、スポーツライターを経て2010年にファイザーに入社。営業、広報、デジタルマーケティングを担当し2020年 11月にヤンセンファーマ入社。2021年に慶応義塾大学大学院卒業、MPH 取得。


企業HP:https://www.janssen.com/japan/

IBD とはたらくプロジェクト:ibd-life.jp