
Social Action Pioneer!第二回は、6月1日よりスタートしたプログラミングの楽しさや可能性を知る機会を女の子たちに提供するイベント『KIKKAKE(きっかけ)〜ガールズプログラミングフェス〜』を主催している、GMO メディア株式会社の沼田さんと、株式会社アフレルの檜山さんです。(両者以後敬称略)
一般的には、男の子のイメージが強いプログラミングですが、どうして今回は「女の子」向けのイベントを実施することになったのでしょうか。
社会が抱える「ジェンダーバイアス(男女の役割への固定的な考え方)」や「女性の職業選択」の課題と共にお話を伺いました。
GMO メディア株式会社と株式会社アフレルはどのような企業でしょうか?一言で教えてください。
沼田:まず GMO メディアですが、インターネットのインフラ(企業活動を IT の面から支え、基盤となるシステムのこと)を担っている企業です。銀行や証券、メディア、仮想通貨など、ジャンルは多岐に渡ります。
檜山:アフレルは、先端技術を使って未来をデザインできる人材を育成する会社です。AI や IT 技術等を使って、企業、学校教育、⺠間 スクールといった分野での人材育成を支援しています。
今回の「KIKKAKE(きっかけ)〜ガールズプログラミングフェス〜」はどなたが発案されたのでしょうか?
檜山:私が発案したのがきっかけです。アフレルは 2006年からプログラミング教育支援というのをやってきているのですが、以前よりそこに女の子が少ないというのが課題としてあったんです。
一方、GMO メディアは2017年からプログラミングスクールを検索できる「コエテコbyGMO」を運営していて、最近では 1 万以上のプログラミングスクールと取引があります。
以前から色々な取り組みをさせていただいていたのですが、今回のきっかけとなった「女の子が ITの分野で少ない」という課題に GMO メディアさんも共感していただき今回、企画・実施することになりました。

「プログラミングの教育現場で女の子が少ない」という課題自体はいつごろ感じたのでしょうか?
檜山:確信したのは2020 年ですね。今まで、プログラミング教育支援をやっている中で、実際にイベントやスクールなどの現場を見ていると、男の子が多く女の子が少ないというのを肌感覚で感じていたんです。
さらに「コエテコ」からプログラミングスクールへの体験会申し込みも男の子が 8 割というデータがあったり、アフレルがやりとりをしている全国 800 以上のプログラミングスクールさんからのアンケートでも、8 割以上のスクールが「参加しているのは男の子がほとんどです」と答えているという現状があったり、数字にも明確に表れていました。
また、GMOメディアさんのセミナーで女の子のプログラミング教育について話した時の反響の大きさや、同様のテーマで開催した座談会でも、多くの方から「女の子のプログラミング教育に対する課題感」が明確に浮きあがってきたんです。
これは業界全体の課題だと認識し、本格的に取り組むことになりました。
「KIKKAKE(きっかけ)〜ガールズプログラミングフェス〜」は、企画〜実施までどれぐらいの期間が必要でしたか?
檜山: 2020年の12月ごろから構想を始めて、リリースが今年の3月ですね。期間としては3ヶ月ぐらいです。
期間が短めなので準備においてもスピードが必要で大変なところもありましたが、GMO メディアさんのサポートを受けつつ実施に至ることができました。
苦労した点はどのようなところですか?
檜山:全国のプログラミング教育の事業者方々にご賛同いただくことでした。
このイベント自体、日本で初めての試みです。
イベントを盛り上げるためには「大きなムーブメントを作らないといけない」ということ。
そのためには、私たちアフレルと GMO メディアさんだけではなく、全国の⺠間プログラミング教育事業者を巻き込む必要がありました。
先ほど話したように準備期間が 3ヶ月ということもあり、短期間で事業者の方々に趣旨を理解してイベントに参画いただくという点が一 番苦労しました。そのために、今年の 3月ごろから事業者の方々にこのイベント説明のセミナーを週に 1 回開催して、少しずつ賛同者を集めていきました。
ジェンダーギャップの解消や子供たちへの学びの機会提供という点でイベントに価値を感じていただき、スポンサーになっていただく企業も増えています。今は、ブランドやスクールの壁などを超えて、賛同者の方々は全国 107 事業者、教室としては 507 教室(取材当時)集まっている状態です。
それだけの数の方々が潜在的に「女の子が少ない」という課題感を実は感じているということですね
檜山:そうですね。事業者の方々とやり取りする中で、女の子たちにもっと参加してもらうにはどうしたらいいかという声は聞かれていましたね。
どうして女の子は、プログラミング教育の場に参加する上で壁があるのでしょうか?
檜山:「女の子のほうが IT 分野やプログラミング分野に向いていない」という声を聞くことがあるのですが...実は違うんです。
いろんな方に話を聞いたり現状を調べていったりする中で分かってきたのですが「女の子と男の子ではIT 分野やプログラミング分野で能力の差がある(男の子のほうが優れている)」というのは実際は全くありませんでした。
では実際には何が原因かというと「環境設定」です。
詳しく説明すると、男の子が多くいる中に入っていくことに女の子が遠慮してしまったりだとか、プログラミングを学ぶためのコンテンツが男の子向けに作られていることが多く、女の子がその内容に興味を持てないということだったりとか「プログラミングを学ぶための環境」の部分に問題があったんです。
プログラミング教育というのは海外もそうですし、これからの時代に活躍する子どもたちに必要になる教育です。
それが、環境設定の問題で女の子がなかなか参加できないというのは私たちとしては不本意ではあるし、もったいない。今のままでは、ある意味女の子たちの可能性を奪ってしまっているとも言えるんです。
だからこそ、今回開催するイベントには次の2 つのポイントを大切にしています。
一つは、女の子が遠慮なく参加できる場を設定すること。
もう一つは、女の子が興味を持てるコンテンツを揃えること。
これらを心がけて、より女の子が参加しやすいイベントとして「KIKKAKE(きっかけ)」を実施しています。

今回のイベントの教材であるキューブ型ロボット「toio(トイオ)」 かわいらしいサイズ感、そしてポップなデザインへカスタマイズ可能であり女の子でも抵抗なく手に取れるようになっている。
プログラマーもそうですが、パイロットなど男の子のイメージがあるものって女の子がどうしてもチャレンジしづらい現状があると思います。
そういった固定されたイメージや偏った見方というのはどこで生まれると思いますか?
檜山:男女比の偏りが生まれている背景には、能力の差が大きいというよりも、やはり先ほど申したように環境設定であるとかジェンダーバイアスの力が大きいというように感じています。
そして、それを作っているのは誰かというと、教育の場だったり、あるいは家庭だったり、子どもたちが育っていく環境なのではないかと考えています。
家庭での問題というのは、保護者の方が「プログラマーは男の子がなるもの」と考えていたりだとか、「うちの娘には関係ない」と考えていたりだとか、そういう現状もあるんです。
そこで、今回の KIKKAKE(きっかけ)のイベント名には、3つの意味を込めています。
女の子にプログラミングの楽しさや可能性を知ってもらうきっかけにする
保護者の方に自分の娘にもプログラミングは関係があるんだということを知ってもらうきっかけにする
プログラミング教育を提供する人たちが、女の子たちにとってプログラミングを体験しやすいコンテンツや環境作りを学んでもらうきっかけにする
だから、KIKKAKE(きっかけ)では女の子が気軽にプログラミングに触れられる機会を作っていくと共にそれらの課題を改善する第一歩にもなると考えているんですね。
例えば先程の 2つ目の「保護者の方にも知ってもらう」という意味では、保護者向けセミナーを用意することをはじめとして、親子向 けのプログラミング体験の場も多く用意しています。
そこで、自分の娘にもプログラミングって関係がある分野なんだな、ということを理解していただきたいと思っています。
もう一つのプログラミング教育事業者の話としては、4月〜5月の2ヶ月間、ほぼ毎週事業者向けセミナーを実施していました。
アフレルと GMO メディアさんに加え、「KIKKAKE(きっかけ)推進委員」の7社が協力して、女の子に参加してもらえるようなコンテンツ作りのポイントや、集客ノウハウを提供するセミナーです。
やはり、教育を提供する側の方々意識も変わらないと、プログラミング環境もジェンダーバイアスも変わらないと感じていたので実施しました。

沼田さんは実際の IT 職の女性進出の現状についてはどう感じますか?
沼田:自分もエンジニアやプログラマーという経歴を経てきて、女性って50人エンジニアがいる中で 2人とかしかいないことが多い現状はあります。この比率は、多くの企業さんがそうなっているのではないかと感じますね。
でも一緒に仕事をしていて、女性だから不利になるとかは全くないです。
我々のチーム(コエテコチーム)にいる女性はバリバリのリードエンジニア(エンジニアチームのリー ダー的な存在)として活躍しています。
ただ、我々は女性が IT の世界でも活躍できると理解していても、世の中的にはまだ違うところがあるんでしょうね。
なぜかというと 今小学生のお子さんの保護者の方が子どもだった時には、プログラミングは学校で勉強してこなかったですし、おそらく理系の学部とか に進む女性も少なかったと思います。
そういうことが無意識に刷り込まれて、自分の子どもに対してなんとなくのジェンダーバイアスがかかって見てしまう。
「ロボットをうちの子が習うのは違うよね」、みたいになっちゃうのかなと思います。
この前たまたま中学生の女の子と保護者の方と話していたんですけど「俺プログラミングに関わる仕事やってるんだよね」って話したら、その女の子から「私理系とか無理だから」って言われちゃって...。
まだ未体験の段階からどうしてそう思ってるんだろう?ってちょっと驚いたんです。
だから今回のイベントとか教えてあげて。「いい機会になるからとりあえずやってみ」っておすすめしたんです。
中学生ぐらいになると、どこかで知らず知らずのうちに刷り込まれているのでしょうね。
やっぱり保護者の方々が娘に対して「手に職をつけたい」ってなると、まだイメージとしては「看護師」とかが優先になるのかなと思っ ています。でもそれは、別に最初からプログラミングを否定しているとかではなくて、自分が体験していなかったり、周りにいなかったからということもあって、プログラミングが手に職になるっていうイメージがつきづらいと思うんですね。そこを変えていくのはなか なか大変だなという思いはありますね。

実際のイベントの様子。タブレットでプログラミングをして「toio(トイオ)」を動かしていく。
それぞれの企業で女性の社会進出や IT に触れる機会の創出という点において解決方法として考えていることはありますか?
沼田:毎年コエテコでは⺠間のプログラミング教室市場を調べていて、2030年に1,000 億ぐらいになる可能性もあると発表しています。
それってつまり社会のニーズとして IT が求められていくからだと思うんですね。
これからはどの職業についても AIとか IT技術は切っても切り離せないのでニーズが増えていく。
ただその市場が育っていくためには、男性だけが参加するだけでは限界があります。 まさに今回の「KIKKAKE(きっかけ)」のように女の子がどんどん IT 分野に積極的に参加してその比率を上げていければ、いずれは 日本の IT人材も増えていくのかなと。ちょっと規模が大きな話になってしまいますが。
ただ、それに伴って豊かな社会にもなっていくのかなって思っています。
檜山:プログラミング教育ってプログラマーとかエンジニアになるための教育のイメージがあるんですが、そうではなくてアートとか 哲学とか農業とか、様々な分野の垣根を超えて必要になる力をプログラミングを通して育むという教育なんです。
そういう意味で私たち提供側が、教育を受ける側を限定してはいけないと思っていて。
例えば「もともとプログラミングが好きだから」「ロボットが好きだから」という子たちだけにサービスを提供するのではなくて、それ以外の子たちにもそういった機会を提供してあげるというのが使命だと考えています。
そのためには、教育事業者とか保護者の方々のマインドチェンジにも踏み込んでいかないといけないのかなとも思いますね。
実際、男の子も女の子も、プログラミングをやってみれば楽しんでくれるんです。
問題はその後で、女の子が継続しなかったり、やめてしまったりすることが多い。
やはりそこには、全てではありませんが、お母さんやお父さんの考え方が反映されていたりします。
これは理系分野や IT 分野で⻑く言われている課題なのですが、教育課程の上に進めば進むほど、女の子の比率が少なくなっていくという現状があります。
理数系の分野だと女性研究者とかエンジニアって一桁ぐらいの数字しかいないんです。
そうなってくると、女の子たちが進出して活躍しようとする気持ちを削いでしまったりとか、その道に進むことに抵抗を生んでしまったりとか、また別の新しい課題を生んでしまう。
将来、IT 分野や理系分野で活躍する女性を増やしていくためにも、今回の「KIKKAKE(きっかけ)」では女の子たちに「最初の一歩」を 提供したいと考えています。
最後に、新しい取り組みにチャレンジしようと考えている若者たちに向けてこのような新たな取り組みを実施しているパイオニアとしての立場からメッセージをお願いします。
檜山:今回の「KIKKAKE(きっかけ)」でプログラミング教育への参加男女比率の偏りを解消しよう!と動くのは、もちろん大変なところもありました。
何かを変えることって大変だと思うんですが、でも、変えようとしていることが正しければ、必ず賛同者が現れて協力してくれるんです。そのためには、なぜ変えたいと思ったのか、なぜそれを行うのか、というのを明確にして突き進んでいくのが大事かなと思います。
沼田:コエテコという媒体が本質的に提供したいのは、教育だったりの、機会の選択肢です。
一口にプログラミングに興味がある子どもといっても、プログラマーのメジャーリーガーになりたいという子、とりあえずスクラッチっていう簡単に使えるソフトができるようになりたいという子など、目的ややる理由は十人十色なんです。そういう子たちを見ていて、僕らもできるだけいろんな選択肢を提供したいなって思っています。
選択肢がたくさんあることに気づいて、その一歩目をいろんな形で挑戦していくと、楽しい未来が待っているんじゃないかなと思っています。
そして、そこからいろんなことに挑戦していただければと思います。
ここで、イベントに参加した方々の声を紹介します!

◆イベント名:キューブ型ロボット『toio(トイオ)』をプログラミングして動かそう!
イベントURL:https://coeteco.jp/kikkake/events/10033
【プログラボ(プログラミングスクール)】
プログラミングが初めての女の子でも、自分で動かすロボットに夢中になって楽しんでくれてよかったです。 このKIKKAKEイベントがまさにきっかけとなり、女の子がプログラミングにより興味を持ってもらえたらと思います。
【参加した女の子たち】 ・かわいい toio がつくれて楽しかったです! ・前、後ろ、左、右に行ったり、観覧車にのったり、ロボットを動かすのが楽しかった。 ・めちゃくちゃたのしかった! toioを動かしたら、観覧車に乗って楽しかった。
【保護者】
・楽しそうなので機会があればまたプログラミングの催しに参加できればと思います。
・子どもがとても楽しかった、またせ是非やりたいと言っています。
KIKKAKE(きっかけ)〜ガールズプログラミングフェス〜は 6月30日まで各地域で開催中!
詳しくはURLをクリック!https://coeteco.jp/kikkake
【スピーカープロフィール】

檜山 桐子
株式会社アフレル アフタースクールソリューション所属 KIKKAKE(きっかけ)〜ガールズプログラミングフェス〜主催

沼田 直之
GMOメディア株式会社「コエテコ byGMO」責任者
KIKKAKE(きっかけ)〜ガールズプログラミングフェス〜では、アフレルとともにイベントの運営を行う。