
たった 1人の誰かとの出会いによって、運命が変わることがある。
株式会社 Niji リクルーティングは、そんなひとりの「LGBT 当事者」の就活生との出会いによって生まれた会社です。
LGBT 当事者たちがもっと自分らしく、のびのびと働ける社会を目指して、企業向けのコンサルティングや就職支援など「働く領域」において幅広くサポートをしています。
今回は代表取締役である齋藤さんに、その 1人との出会いをはじめとして LGBT の課題や将来の展望についてお話を伺いました。(なお、LGBT に関しては、LGBTs や LGBTQ などさまざまな表記がありますが今回は「LGBT」に統一いたします。)
Niji リクルーティングは一言で言うとしたら、どんな企業ですか?
LGBT の方々が働く上での課題を解決していく会社です。
この事業はとある就活生と出会ったことがきっかけと拝見しました。そこから自分がやらなくてはいけないと思ったきっかけはどのようなことでしょうか?
やはりその就活生と出会ったというのが僕にとってのこの企業をつくる上での大きな転機・きっかけでしたね。その時僕は今と同じように人材業界の仕事をしており、その方とは自社の採用面接で出会いました。
その方はトランスジェンダーというセクシュアリティが理由で就活に苦労をしていたのですが、話を聞いていると、とてもいい学生だったので採用いたしました。
このときの「採用」というのは、就職で困っていたからこそ本人にとってもよかったとは思うんですが、実際すごく活躍してくれて、企業にとってもプラスになったんです。
この出来事は、LGBT における雇用のあり方を見直すことで、今の社会全体にとっても大きな価値があるんじゃないか?という考えに繋がり、最終的に自ら事業を興すことにしました。
事業化するまでの期間はどれぐらいでしたか?
半年ぐらいですかね。まずは LGBT についての情報が必要でした。
今どういうことに悩んでいてどういうニーズがあるのかとか、そういったことです。事業としてもやる以上成功させないといけないので、そのあたりの調査も含めて半年ぐらいですね。
その中で、苦労した点はどのような点でしょうか?
最初の段階で身近に LGBT の人がいたというわけでもなかったので、自分自身がよく分かっていなかったというのがありました。
今でこそ LGBT という概念が少しずつ世の中に浸透していってはいますが、当時は調査データや書籍などもほぼない状態でしたので人に聞くというところから始まりました。
実際に数十人の方にお会いしてじっくりお話を聞かせていただきました。
その声を聞いていく中で、印象的なことはありましたか?
「いろんな人がいる」といういうことですね。
一般的に LGBT というと、ひとくくりに考えられがちなのですが「LGBT という人」はいないし、「トランスジェンダー」という人もいないんです。それは特性として共通点はあったとしても、厳密にはひとりひとり違うということですね。
みんな違うからこそ、ひとりひとりのお話に気付かされるという感じです。
どうして「事業」にすることを選んだのでしょうか。
LGBT に関しては NPO団体さんがいくつもあって既に就労支援などもされていました。
そのような活動もとても大切で意義があると思いますが、私たちはより多くの人にサービスを提供するために事業化という方法を選択しました。資金的限界がきて途中で止まったり規模が小さくなったりしないためにも事業としてやることがベストかなと考えたんです。
現在、LGBT の方々に対しては社会から完全に偏見や差別がなくなってはいない状態があります。それはどうしてだと考えますか。
やはり「知らない」からだと思います。
人間、知らないものに対しての不安はあるのではないかと思っているので、まずは「知る」ということはすごく大事かなと思います。
まずは知り、そして一緒に働いてみれば、最初は「どうなんだろう?」って思っていた人も別に何か心配することではなかったというのはよくあるんですよ。

実際に利用されているクライアントの方からはどのような声をいただきますか?
やはり最初は「こんなことを言ってもいいのか、きいてもいいのか」とか「どこまで何を一人一人が配慮すればいいのか」といった不安の声を言われることがあります。
ただ、実際会ってみたら「本当に 1人の人でしかなくて、その人のいろんなものの中にそういう特性がある」ということを感じてもらえているように思いますね。
では、LGBT 向けサービスの利用者の方々は、どんな感じですか。
転職サービスのでは僕自身、何百人という当事者の方々の話を聞いてきました。
それこそ面談したときに「生まれて初めてカミングアウトしました」という方もいます。
最初、僕も「えっ」と思って。「初めて話すのが僕でいいのかな?」と。ただ、それはそれで信頼していただけている、というのはあるので嬉しく思います。
転職の際に、カミングアウトしないと退職理由が矛盾するといういうケースがあるんですね。
本人はセクシュアリティの問題で転職したい。でもそこでカミングアウトできないと、会社から「なんで辞めるんですか?」と聞かれた時「まぁちょっと仕事が嫌で...」というように本音では言えなくなってしまう。
だからこそ、その前に気軽に話せる場として「カミングアウトをして話を聞いてもらえる」というのは、大切なことだと考えています。
転職に関してこうすればいい、というような分かりやすい方法はない、と。
はい。この課題はマニュアルみたいなのがないですね。
ただ、逆に言うと、マニュアルがない=いろんな人がいるからこそ、気にしなくてもいいのかな、とも思っています。セクシュアリティも含めて人それぞれ、いろいろな個性があるので。
Q(クエスチョニング)※1 なのか LGBT のどれかなのか、あるいはそれ以外なのかということは、すごく重要っていうわけではないのかなと思います。
※1 クエスチョニング... まだ明確にセクシュアリティなどが決まっていない状態。
企業として考えるこれからの解決方法や新しい取り組みはありますか?
トランスジェンダーの方向けのサポートですね。
人それぞれとは言ったのですが、トランスジェンダーの方は特にいろんな意味での具体的な配慮が必要なケースが多いんです。
例えばトイレのこととか、自分の働きたいスタイルで働くことを認めてもらえるかどうかといったところですね。
戸籍や体の作りは男性だけど、でも心は女性だから社会では女性として働きたい。
ではその際に女性の服装や髪型で働けるのかとか、本名ではない名前が使えるのかとか、課題はとても多いんです。
そういったトランスジェンダーの方が抱える「就職しにくさ」や「オープンにして働きにくい環境がある」といった課題をなんとかもう少し解決したいなと思って、今新しくプロジェクトを立ち上げてそこに取り組んでいこうとしています。
今後の企業としてのビジョンを教えてください。
僕が考えているのは、LGBT 特化ではありますが別に LGBT 限定ということはないんです。
最終的には、それを通じて、ダイバーシティを実現したいという思いがあります。LGBT 特化でのサポートをやっていてもそこだけを特別視するのではなくて、その先につなげていきたいなと思っています。
急速に社会の LGBT への理解は進んできて、変化も生まれてきています。社会の変化にあわせて企業の意識や取り組みも急速に変化してきているからこそ、先ほど話したように働きにくさを抱えている人たちの課題を一つずつ解決していきたいと思っています。
では最後に、新しいことにチャレンジしたい若者たちへ背中を押すようなメッセージをお願いします。
「向き不向きより前向き」 これは僕が大事にしている言葉です。
若いうちは向いてる向いてないとかは分からないので、やりたいと思うことがあれば前向きにやってみたら良いと思います。やってみて違うと思ったらそこで方向を変えてやっていくので良いと思います。
大事なことはやると決めたこと を一生懸命やることだと思います。
20代だったらいろんなことにチャレンジをしていいと思います。失敗したと思っても、それは本当の失敗じゃないと思います。思い通りにならなかったことを含めて、次の何かに生かしていくことで、働くことも人生も楽しくなると思います。
【スピーカープロフィール】 齋藤 敦 株式会社 Niji リクルーティング代表。 トランスジェンダーの就活生との出会いをきっかけに、人材領域での仕事の経験 を生かして起業。「LGBT ダイバーシティを推進することですべての人が仕事で活躍出来る社会を創る」という理念の元、企業向け LGBT 研修を初めとしてLGBT 当事者たちの転職・就職相談を実施している。