デザインが障がいの概念の壁を塗り替えていく!株式会社フクフクプラス 磯村 歩



まるでイラストのような可愛らしいフォントやパターンの数々。


これはいったい誰が描いているのでしょうか。

実はこれは、東京都渋谷区で暮らし、働いている障がいのある人と、専門学校桑沢デザイン研究所の学生がコラボレー ションして生まれた渋谷区公認のパブリックデータ「シブヤフォント」なんです。


この「シブヤフォント」を広めるべく尽力しているのは、一般社団法人シブヤフォントと株式会社フクフクプラスの共 同代表を務める磯村歩さんです。


アートと障がい。


この新たな可能性を未来に向けて開花させるために、今までの海外や企業で体験した障がいに関する こと、そしてフォントやアート作品を制作する中での想いを伺いました。



フクフクプラスはどのような企業でしょうか。

障がいのある方が生み出す、アート作品のマネジメントをする会社です。


前述のシブヤフォントは2016年度〜20 20年度までフクフクプラスが渋谷区からの業務委託で企画運営し、2021年度より、新たに設立した一般社団法人 シブヤフォント にて運営しています。


磯村さんは、ずっとデザイン関連のお仕事をされていますが、もともとデザインに触れたのはどのようなきっかけ があったのでしょうか。


小学生の頃から絵は好きで、最初は漫画家になりたかったんです。ですが、大学受験の際に製品として形になるものが面白いのではないかと思うようになり、プロダクトデザインに選考を変えたんです。そこがきっかけですね。卒業後は、プロダクトデザイナーとして富士フイルム株式会社で働いていました。


デザインと福祉を関連づけることには以前から興味があったのでしょうか?


富士フイルム時代には「ユニバーサルデザイン」の推進を担当していました。ちょうど「写ルンです」の操作性につい て調査をしていたころ、その調査を進めていく中で、全盲の人が「写ルンです」を利用していることがわかったんです。


「目が見えないのに、なぜカメラを使われるのだろう?」と驚いたのですが、どうやら旅行先の様子をご家族に伝えるためのコミュニケーションツールとして活用されていて「写ルンです」はコストダウンのため電子的な機構が少ないのですが、それがかえって触覚と音で全ての操作ができるようになっていたんです。


私は、“障がいのある人の 不便さを解決してあげよう”と思っていたのですが、逆に “こういう使い方ができるんだよ ”と教えてもらったような気がして。そこから、デザイナーにとって、障がいのある人の工夫や気づきはデザインのヒントになるのではと思ったんです。これが私にとっての「障がいとデザイン」との出会いでした。


そこからデンマークに留学されたそうですが、それはどうしてなのでしょうか。


当時、デンマークって世界一幸せな国だと言われていたんです。

「世界一幸せなところ」って、単純に見てみたいですよね。それで、退職後、デンマークに行くことにしました。私が留学した学校は約160人学生がいる中で、約60人が障がいのある学生でした。


デンマークには「アシスタント ヘルパー制度」といって障がいのある人が自分自身でヘルパーを雇用し、勤怠管理をして、自分自身の自立をかなえるための仕組みがあります。この学校の障がいのある学生は、この仕組みを活用し、同級生をヘルパーとして雇って学校生活において自立生活するためのトライアルをしていました。障がいのある人自身が主体的に自分自身の生活を組み立てていたわけです。


国全体の教育現場においても「インクルーシブ教育」といって、障がいのある子どもを通常学級の中に混ぜて進められていました。授業は少人数のグループに分けて行われるのですが、もしそのグループにたまたま目の見えない同級生が いたとしたら「今日は目が見えなくても学べることを考えよう」というように、学生自身が同級生を包含(インクル ーシブ)しながら自主的に学びを組み立てていけるように運営されていました。


他にも、障がいのある人が街に出かけていくさまざまなサポートが日本より充実していたり、デンマークの基本理念 「自己決定権・対話・連帯」に基づいて、障がいのある人が、自分自身で自分の生き方を決め、それを対話でもって互 いに尊重しあい、連帯の意識をもって互いに支え合う思想が、社会全体に組み込まれていたように思います。


デンマークから帰国後は、どんなことをされたのでしょうか?


オフィス前の広場で、近隣の福祉施設が手作りの商品を販売しているのを見かけ、デザイナーとしてお手伝いできることがあるのではと思ったのが、今につながる最初のスタートでした。


そこから障がいのある人と触れ合う中で「障が いのある人が描くアート作品」の独自性や素晴らしさに気づく機会がありました。 なんといっても、そのオリジナリティ。デザイナーには描けない大胆な筆跡などが魅力的で、とても可能性を感じました。そこから障がいのある人のアート事業への構想が広がっていきました。


渋谷区の事業として、障がいのある人のアートをフォントやパターンなどのデータにする「シブヤフォント」の事業推進をされていますが、どのような経緯で生まれたのでしょうか?


2016年度に渋谷区⻑が「渋谷のお土産を作ろう」と発案し、同区の障がい者福祉課が渋谷区内の障がい者支援事業所と専門学校桑沢デザイン研究所での共創を企図し、同校で講師をしていた私に声がかかったのがきっかけです。


数人の学生と共に検討する中で生まれたアイデアが、障がいのある人の文字や絵をフォントやパターンにするものでした。直接お土産ではないものの、いずれ企業が商品に採用し、それがやがてお土産に育っていくであろうと期待しました。 ただ「お土産」というテーマに対して、最初はなかなか売り上げにつながらないということもあり、活動自体に疑問符 がつくということもありました。



そこを乗り越えられたきっかけは?


「フォント」や「パターン」を使ったお土産の試作品を作り、それを発表し、そこで生まれたものを企業に紹介する中で、少しづつ商品になり、店頭に出始めて、周りの反応も変わってきたように思います。

渋谷ヒカリエでポップアップショップをさせていただいた時に、とても多くの方々にお買い求めいただき、売り切れになった商品もありました。そうした実績から渋谷スクランブルスクエアでやってみませんか?と、お声がけをいただきました。そうやって、口コ ミなども含めて、コツコツと社会にプロダクトを出していくことを積み上げて、広がっていったという感じです。


今年(2021年)で 6年目に入りました。

左:渋谷のビルをモチーフとした原画。真っ直ぐではなくゆらぎのある独特なラインが特徴的。

中央:桑沢デザイン研究所の学生が制作したデザインパターン。色味とレイアウトを変えることでさらにデザインとして洗練されていく。

左:実際に製品化されたもの。人に見せたくなる、持っていて嬉しくなる、おしゃれなグッズたち。


こういった素敵なフォントやパターンを見ていると、障がいという概念自体も揺らいでくるように思います。


そうですね。「障がい者」という言葉は、「障がい」が、その人の前面に出てしまうんですよね。「○○障がいの○○さん」というようなイメージでしょうか。


でも、アートに取り組むと、その人の特徴や個性がポジティブに前面に出てきます。「こういう作品を作る○○さん」のように。


だから私たちが、障がいのある人をアーティストと呼んでいるのはそれぞれの多様な特徴や個性を、まず尊重したいという思いがあります。


アートは、周りと同じものでは評価されません。違うからこそ、アートとして価値が生まれてきます。


アーティストの他者とは異なる視点が、その人の唯一無二のメッセージであり、そうしたものが社会に受け入れられた時、いずれ障が いあるなしにかかわらず、それぞれの違いが認めあい、誰にとっても住みやすい社会になっていくのだと思います。


シブヤフォント の今後の目標をお聞かせください。

1つ目は、まず工賃の向上ですね。


シブヤフォントに参加している就労継続支援B型施設における工賃を向上し、働く喜びを感じられ、ひいては自立して生活できるよう支援していきたいと思います。

2つ目は、混ざり合う社会にむけ「ダイバーシティ&インクルージョン」の理念をしっかり伝えていくことです。

通常 障がい者支援事業所には、一般の方々が訪れる機会が少ないように思います。

でも、もしシブヤフォントの活動のよう に、学生が訪問し、障がいのある人との交流が広がれば、障がいのある人に対する固定観念も変わってくるように思います。


ある学生は、障がい者支援事業所に訪問するようになって「人と人とがしっかりと交流すれば、結果的に障がい あるなしって関係なくなって、その人自身に向き合えることができる」といいます。そういう風に、あるカテゴリーで 他者を捉えることから解き放たれれば、もっと人と人との交流の中から、いろいろなポジティブな可能性が生まれてくると思います。

シブヤフォントの「このフォント、かわいいな」「このパターンの商品ステキ!」というところからダイバーシティ (多様性)に触れていただき、多様な人々の個性を尊重しながら、新しい価値を生み出すシブヤフォントのインクルー ジョン(包括)に向けた活動を、もっともっと多くの方々に知っていただけるよう頑張りたいと思います。


ちなみに2020年度のシブヤフォントは、オンラインで新データの制作を進めました。

オンラインならば、例えば、 渋谷の障がい者支援事業所で生まれた原画を、桑沢デザイン研究所と海外の学生とでコンペ形式で新しいフォントやパ ターンを制作するなど、国境を超えてさまざまな取り組みもできると思います。そんな風に、渋谷発、日本初の取り組 みを世界に届けていきたいと思っています。

桑沢デザイン研究所の学生との実際の制作風景

パラリンピック応援タオルデザイン


それでは最後に新しい取り組みをしたい若者たちへ向けてのメッセージをお願いします。

まず第一歩を踏み出すことが大切ではないでしょうか。


僕自身も始まりはほんの小さな一歩でした。今やっていること は、必ず未来につながります。あまり選り好みせず、まずは第一歩を踏み出してみることが大切だと思います。 またその際、理屈で考えることなく自分が楽しいとか嬉しいとか、そういう風に自分の直感を信じて取り組んだ方がいいと思います。


結局、自分が楽しめなかったら人に伝わらないし、自分が楽しいと思えないことは、他の人にと っても楽しいことではなかったりします。結果、その活動は広がりません。 あまり人がひいたレールに惑わされることなく、どっしりと構えられたらいいですね。


今は会社に入ることだけが唯一 の選択肢ではなく、いろんな生き方がどんどん広がっています。時代は常に変わっています。今のキャリアパスが、十年後、メインストリームであるわけでもありません。ぜひ、自分自身を肯定し、自分が信じる道を歩んでいって欲しいと思います。





2021 年度のシブヤフォントメンバー(渋谷区、障がい者支援事業所の職員、桑沢デザイン研究所の学生、シブヤフォ ントスタッフ他)


【スピーカープロフィール】 磯村 歩 一般社団法人シブヤフォント 共同代表

株式会社フクフクプラス 共同代表

専門学校桑沢デザイン研究所 非常勤教員/外部評価委員

1989年 金沢美術工芸大学卒業、同年富士フイルムに入社しデザインに従事。先進研究所におけるイノベーション促進 プログラムの運営リーダー、ユーザビリティ評価技術導入など HCD プロセス構築などを歴任。2006 年より同社ユー ザビリティデザイングループ⻑に就任し、ユニバーサルデザイン導入などデザイン部門の重要戦略を推進。退職後デン マークに留学し、ソーシャルインクルージョンの先駆的な取り組みを学ぶ。第3回国際ユニバーサルデザイン会議 2010 特別講演(招聘レクチャラー)、桑沢デザイン研究所では学生向けにデザイン思考のカリキュラムを導入、渋谷 区事業「シブヤフォント」の事業運営と総合ディレクション、株式会社フクフクプラスでは、福祉を逆転の発想でビジ ネス化した企業向け CSV 型サービスの導入を進める。

賞罰:ソーシャルプロダクツアワード 2021 大賞、IAUD 国際デザイン賞金賞、グッドデザイン賞、桑沢学園賞、日刊 工業新聞社 機械工業デザイン賞受賞、世田谷区産業表彰 産業連携・マッチング受賞、Good Job! Award 入賞他 著書:ユニバーサルプレゼンテーション「感じるプレゼン」(UD ジャパン)

企業 HP:https://fukufukuplus.jp

シブヤフォント HP:https://www.shibuyafont.jp

桑沢デザイン研究所:https://www.kds.ac.jp