「ひとりじゃない」を分かち合える社会へ。社会福祉法人子どもの虐待防止センター



「本当は子どもを叩きたくないのに、叩いてしまったーーー」

核家族が当たり前となった現代、誰にも子育ての苦悩、孤独を話すことができず、ひとりで苦しみを抱え込んでしまう。

そのような保護者などとともに虐待防止について考える団体があります。

社会福祉法人子ども虐待防止センターです。


子どもの虐待を早期に発見し、虐待のない子育てを支援するために1991年に設立、1997年に社会福祉法人として認可された⺠間団体です。研修を受けた相談員、臨床心理士、ソーシャルワーカー、行政経験者、教育関係者など、多くの専門職がボランティアで子どもの虐待防止のために活動しています。 そうした現場から子どもの虐待防止センターの理事に「子育てや虐待の相談」の現状について詳しくお話を伺いました。


子どもの虐待防止センターはどのような活動をしている団体でしょうか。


子育てに悩む保護者を支えることが子どもの虐待の早期発見や虐待のない子育てを支援することになるのではないか、 というところで始めた団体です。今年で30年経ちます。


活動は、電話相談からスタートしました。その中で、子育てに関するさまざまな悩みや思いを電話相談で話してほしい、そして子どもと向き合ってほしいと思っています。

保護者は、子育てをしていると


「本当にこういう対応でよかったのか」

「叩いてしまったけれど、厳しすぎなかったか、心の傷にならないか」

「未熟な親で子どもがかわいそう」

「寝顔はかわいいのに、起きていると思った通りに動いてくれない。怒り心頭!」

「こんなに子育ては大変なのに、どうして誰も助けてくれないのだろう。自分以外のみんなはどうしているのだろうか」

など、いろいろな思いを抱えてしまいます。

ここの電話相談は、そのモヤモヤしたいろいろな思いを聴いています。

電話相談以外にも、育児の大変さ、悩みなどを話し合うお母さんたちのグループ「MCG(母と子の関係を考える会、 Mother &Child Group)」もやっています。子育ての悩みを抱えた母親たちが、同じように悩む仲間と出会い、その思いを話し、聴き、自分の気持ちを置いて帰る場です。


そのほか、子育てについて悩む親御さんも多く、子どもとのコミュニケーション方法を身につけるために「CCAP版 親と子の関係を育てるペアレンティングプログラム®」も自治体などを通じ提供しています。



現在、通告件数の増加に比例して、やはり電話相談も増えていますか?


一時はネット相談などで完結しているのか少なくなった時期はあったんですね。


しかし、最近は新規のご相談が増えています。コロナによって他者とのかかわりが少なくなっていることも影響するのでしょうか、人の声を聴けて安心した、とか、誰かに気持ちを聞いてもらいたいという思いが強くなっているのを感じています。件数的にも昨年度からかなり増加しています。


私たち相談員はすべてのご相談に対応したいと思いつつも感染防止の観点から密にならないようにしながら本数を制限しご相談を受けているため、電話がつながりにくい現状になって申し訳なく思っています。


制限をかけている中でも増えているということを実感されているということは、相当な数になるのではないでしょうか。


そうですね。ここの電話相談では、「また何かあったら電話してください」と再相談を促すことも多いですが、そうした再相談以上に新規相談が増えているように感じます。

おそらく、これまででしたら地域のいろいろな人に聴いてもらって消化できていた思いが、コロナの感染防止の観点からそうした人との接触が断たれ、消化できなくなり、もやもやしてしまう、そうした思いが電話相談に向けられているのでしょうか、誰かの「生の声」を聴くことを求めているんだなというように感じています。


ここまで深刻化している状況があって、児童虐待の現状について認知度を高めたりするための発信もしなくてはいけないとも思うのですが、なかなかその部分はまだ少ないですよね。そこに対しては、どう考えますか。


そうですね、必ずしも本当に「まだ少ない」のかどうかわかりません。

あくまでも個人的な意見ですが、情報発信する ことによって一番懸念することが「被害者」と「加害者」と分けて「被害者は保護されなくてはいけない」「加害者は糾弾されなければいけない」というようなムードを作ってしまうことなんですね。


「虐待した、するかもしれない」という保護者の話を何回か聞いていくと、だんだん支え手や温かさを求めての電話になったり(背景に子育ての孤独があるかもしれません)これまでの自分を振り返り


「自分も虐待を受けていたんだ」

「自分の親もつらかったんだ」

「子育てに悩みや辛さは誰でも持つんだ」

「今のこの辛さを相談員はちゃんと聴いてくれるんだ、分かってくれる人がいるんだ」


といったように、さまざまな思いを吐露してくれることがあります。


ですので、ここではまず「批判しないで話を聴く」そして相談者自身が「ここができていたんだ」と、自分自身で気づくことを支えています。


だから発信するときに、そこを「加害者だ」と糾弾してしまいますと、自分の気づきを妨げてしまうことになるのではないかと思います。


そういう親のサポートはどうして少ないのだと思いますか?


これもまだ保護者支援が「少ない」とは必ずしも言えないと思いますが、虐待問題に取り組み始める当初、加害者と被害者と分けてサポートするのではなくて、家族全体で支えていこうよ、という専門家が多くいました。虐待の通告自体も、もともとは通告することで人を責めたりするものではなくて、その先の支援に繋げるものであったはずでした。


でも、子どもが虐待死する、あるいは重篤な障害を負ってしまう子どもたちがマスコミに取り上げられました。そこで、当然のことながら「まず、子どもたちの命を救う」からのスタートとなりました。

先ほどの「子どもの成⻑と家族全体を支えていこう」は忘れていないのですが、まず子どもたちの安全を図ることが第一義的な課題となったたわけです。


その後、保護者を援助することも大切、保護者と家族を支えるプログラムを充実させようとか、最近では、暴力をふるったことを反省し、暴力を用いない人間関係を考えるための「加害者臨床」といったことも注目されるようになっています。


ではまさにこれからというところなんですね。


「加害者臨床」についてはこれからますます実践されていくでしょうけれど「保護者援助」については、国が通知を出したのは10年も前です。それ以前から⺠間団体や自治体が地道に取り組んでいるので、今まさに渦中と言ってよいと思います。


保護者側も「SOS」を出せたり「子育てするのは大変なんだ」っていうのを言える社会がこれからは必要なのかなと思います。昨年度児童福祉法が改正されましたが、その中で「体罰禁止」が明記されました。これは、ただ「しつけに体罰を使ってはいけない」と法律に書かれただけでなく、体罰しない子育ての方法を伝えるためのリーフレットを国や自治体、弁護士会など各団体で作成、保護者を支えようとしています。


それに伴って、児童福祉司などの専門家の育成や活動状況というのは変わっていくのでしょうか?


児童福祉司を国家資格にして、研修を計画的にやって専門性を高めていこうという動きもあります。専門家を目指すみなさんは非常に熱心に学び、子どもや家族を援助したいと仕事に就くのですが、保護者の意に反して対応することもあり、そうしたときの保護者の怒りや戸惑いが児童福祉司や児童相談所に向けられるということはよく聞かれます。


私たちのところにも「児相に子どもをとられた」等とという憤懣やる方のない相談が入ることもあり「急に子どもを児相に連れていかれて『虐待』と言われたら、親だったら当然頭にくるよね」と思いつつも、児童福祉司は本当に大変な仕事と思います。

今、児童相談所はこうした強制的にかかわることと援助を両方行っていて、28年度、別の部門で行うようにと児福法の改正がありました。児童虐待の全部を児童相談所が引き受けるのは大変です。その前の段階で気が付いて、保護者が安心してSOSを出せる環境を作っていくことも大切ではないかと思っています。


未然に児童虐待を防止するために必要なことはどのようなことでしょうか。


たとえば、子どもが泣いていて大人の怒鳴り声が聞こえたら、虐待を疑い、児童相談所に通告という流れがありますが、これは法的にも制度的にも正解です。


しかし、実はそれって保護者としてはすごく負担になってしまうことなんです。だから、そうなる前に、誰かがそういうことを見かけたら、声をかけ、助けてあげられる社会とか、みんなが許容できる社会になっていければいいかなと感じます。


つまり、自分たちができることをやる社会や、少しの失敗などは許し合い、助け合える社会になる、ということです。

 

他人の子育てを、失敗としてその人を責める材料ではなく、自分もそうなるかもと自分事として捉えてみんなで子育て していけば、さらに社会が変わっていくのではないかなと思います。



普段から声を気軽にかけられる社会を作っていくだとか、地域社会づくりをやっていくだとか、そういうことをやることで、保護者の方々が抱える悩みが分散化されていくのでしょうね。

そうやって「誰かに想いを話して受け止めてもらう」それが今、我々の電話相談にできることであるし、件数の増加につながっているかなと思います。


では、今後負の連鎖を断ち切っていくためには、全体で支え合える社会を作っていかなくてはいけないと思うので すが、どうやったら作っていけると考えますか?


区市町村は「子育て支援」をしていくと虐待防止や再発防止につながる、地域でどの子も安心して生活し、成⻑できる、安心して子育てができるように、さまざまな子育て支援、家族支援の施策を充実させようとしています。


あちこちで子育てひろばが開設され、子育てのイベントや援助の制度ができ、発展しつつあり、多くのお母さんたちが活用していたのですが、今コロナ感染の影響もあり、限定的開催になっています。

乳幼児の子育てに強い味方である保健師さんも多忙になり、手助けを求めにくくなっているという声も聴きます。


やっぱり、みなさん苦労なさっています。さらに、コロナで家族が家に全員いることで支えがある分、新しいストレスも生まれたり、新しい生活に慣れずいろいろ混乱しています。だから早く落ち着いて欲しいと願うばかりです。


では、これからひとりひとりが児童虐待を他人事で終わらせないためにはどういったことが必要でしょうか。


「虐待を他人事として考えず、自分に引き寄せてとらえる」こともそうなんですが、人間、まったく心身ともに傷つかないで生きるっていうのはないわけですよね。傷ついてもなぜその後元気に過ごせているかというと、その後の人とのつながりなんですね。それで回復したり、癒されたりする。


でも、今のインターネットやメディアなどを見ていると、 見えない相手を簡単に傷つけているような感じがします。


だから、まずは「誰でも傷つきながらも誰かの手を借りながら健康な生活を取り戻している」「お互いの存在が癒しに なっているんだ」ということを意識しながら生活する、そんな社会になればいいと思います。


外に発信するときも、しっかり客観的な公正な情報をもとに発信する、誰かが悪い、誰かがかわいそうという一方的な情緒的な反応ではなく、 公正な立場で発信することも大切です。

それぞれの人の気持ちを認め合いながら、共に歩み寄りながら「じゃあ一緒に やってみようか」というような世の中になっていくとさらに良くなっていくのではないかと思いますね。


これまで大きな課題となってきた保護者側の支援。

現在過渡期を迎えているのは、子どもの虐待防止センターの30年間実施してきた保護者支援のあらましを伺いました。 とても貴重なお話をありがとうございました。



社会福祉法人 子ども虐待防止センター

1991年子どもの虐待の早期発見と、虐待のない子育ての支援を目的として、任意⺠間の団体として発足。その後、 社会福祉法人の認可を受け、現在まで「電話相談を通した親・養育者への支援」等の活動を続けている。

研修を受けた相談員と、医師、弁護士、ソーシャルワーカー、臨床心理士などの専門家が、児童虐待に関連する支援を幅広く実施している。

団体 HP:https://www.ccap.or.jp